韓国の大手出版社からご依頼を受け、漫画の翻訳のお仕事をしているツァイ睦実さん

ツァイ睦実さんの目白大学編入のきっかけから目白大学大学院までのエピソードはインタビュー前半をご覧ください。

3つの大学で学び日本にK漫画の第一波を送った翻訳家ツァイ睦実さんのインタビュー

韓国の大手漫画出版社から翻訳の仕事の依頼が来ることに

漫画の翻訳の仕事について語ってくださった睦実さん

インタビュワー(以下イ):引き続き、睦実さんには韓国の大学院卒業辺りからお聞きしていきます。

ツァイ睦実さん(以下睦実さん):韓国で修士論文を書いているときから日本語の塾講師をやっていたんですよ。奨学金が2年で終わるので、生活費を稼ぐためにバイトとしてやっていました。翻訳の仕事も始めたばかりのときはコンスタントに仕事が入って来なくて、3足の草鞋を履きながらやってましたね。どうやってやっていたんでしょうね(笑)

当時、韓国のソウルのちょっと下のスウォンに住んでいました。旦那さんがスウォンの大学院にいて、私の大学院はテグという町にあったので、KTX(韓国高速鉄道)に乗って学校に行くという感じでしたね。毎日毎日学校に行くわけでは無く1週間に一回先生のところに行く。という生活をしていました。

最初の翻訳の仕事はイーコミックスという、私が見つけた中では日本に最初に韓国の漫画を売りたいんです、という会社でした。韓国の中では大手ですが、ウェブトゥーン(韓国発のデジタルコミック、ウェブコミックの一種)、ウェブ上で、縦にスクロールして読むフルカラーのマンガ。イーコミックスは紙媒体でもやっていた会社で、ウェブトゥーンでも作品を公開している。

日本でも出したいから日本語出来る人募集という求人があったので、応募してテストを受けて、問題無かったんでしょうね。そこからずっと仕事をしています。2016年の10月ぐらいから仕事が続いています。韓国あるあるですが、テキトーな感じで最初は締め切りも無かったですから(笑)

卒論終わってからは暇だったので、このファイルお願いしますと仕事が来たら、3日後ぐらいに仕事して返してましたね。今はすぐ返すのは難しいですけどね。イーコミックスは全体的に少し緩くて融通がきくので、こちらもカツカツしなくて良いので、続いています。

フリーで一社としか仕事をしていないのは一社がダメだと仕事も無くなるので。漫画の翻訳の仕事は漫画家さんが原稿を書いてくれないと、こちらは仕事が止まってしまうので。一作品だけではなく、複数の作品を受け持ってますが、作品Aが休載してもBは続いている間は仕事がありますが、バタバタっと休載が続いちゃうと、今月仕事無かったという感じになってしまうんで。

ドイツに引っ越して1年目に実際にあったんですよ、2018~19年はけっこう暇で、一社だけだと不安定だなと。元々お金のためではなく、とにかくやりがいのためにやっています。

ドイツ1年目は睦実さんご自身、慣れない土地で苦労の連続があったそうです。旦那さんは韓国になかなか慣れずに、他の国でのお仕事を探してそこからドイツに移住の形で睦実さんも一緒にドイツに移住なさったそうです。

睦実さん:実際に私が訳しましたと名前が出ているわけではないのですが、興味がある方はnetcomicsやイーコミックスやレジンコミックスで漫画を見てください。今はもう一つフォーリーダーズという漫画の翻訳専門の会社が出来て3社と仕事をしています。イーコミックスとレジンは自社のプラットフォームでマンガを展開しています。全てがそうじゃないですが、韓国語と日本語と英語で出てるので、読んでみたらどんな風に翻訳されているか、勉強になるんじゃないかなって思います。

今後のビジネスの展望

イ:今後、お仕事の展望などをお聞かせください。

睦実さん:後輩の方に教えたいという気持ちがあります。韓国語、目白といえば韓国語、韓国語学科という人もいますが、実際にプロの翻訳や通訳を仕事にしている人って私ぐらいしかいないと思うんですよ。学生だったときは卒業生の進路がどこまでいけているのかは気になるじゃないですか。日本は学歴フィルターが強いので、自分が頑張ったところで、学校の枠である程度の進路もだいたい決まるのがどうしてもあるし、私は外国語学部の韓国語学科でしたけど、やっぱり韓国語に携わる仕事ができるのか、気になるじゃないですか。韓国語学科出て韓国語をバリバリ使うような先輩方がいるのかな。すごい気になりましたけど、そういう情報ってあまり出て来ないですよね、韓国語学科自体もそこまで歴史が古いわけでは無いので。まだ、私が卒業したときは20年目だったかな、卒業生があまりいないという問題があって、誰に聞けば良いのかわからない。

私もどうしたら翻訳家になれるのか?どうしたらそういった仕事が出来るのか?誰に聞いて良いかわからない、誰にも聞いてもわからない。翻訳のゼミを担当していたキムキョンホ先生も元々の専門は翻訳ではないので。

現在、相談を受けることはちょこちょこあるので、気になる人はいるとは思うけど、誰に聞いたらわからない。そんな人が見つからない。自分自身の経験を活かして、今後、YouTubeで発信もやりたいかなとは思っております。

引き続き、睦実さんから在学生の方にメッセージを頂いております。外国語学科の方々は特に参考になる話題なのでご覧ください。

韓国語学科を卒業した睦実さんだからこそ在学生に伝えたい一言

明確に在学生の進路について真剣に語ってくださった睦実さん

まず、そうですね。韓国語学科だけではなくて、外国語学部全体で言えるのが、まず英語はある程度使えるようにして欲しいのはあります。私自身、韓国にいたときに、日本語と韓国語の翻訳の仕事を探していたときに、英語もできるだろうと会社側は求人募集をかけるんですね。世界的に見て、英語ができない、母国語しかできないのは日本ぐらいで、日本人は日本語しかできなくても仕事があるので困らないんですよね。それが普通なんだけど、一歩外出ちゃうと、いくら日本語うまいからって日本人使わなくても、この人に頼めば英語もできるし、英語ができなくてもほかの専門があるし、結局最後の競争に負けてしまう。日本人が良いということで選んでくれるという人もいるかもしれないですけど、そういう状況で私やりますと声をあげられるかなんですよね。なので、英語専門じゃない人でも英語はある程度欲しい。それができるかできないかで応募できる選択肢が全然ちがうんで、英語は欲しいですね。英語専門の人はどうするんだって話しですけど、英語専門の人は厳しいと思いますよ、英語専門の人っていくらでもいるから。韓国語はまだマイナー言語に入っているかもしれない。誰か韓国語ができる人探してますと言われて、あなたがどれぐらいのレベルでも良いからあなたに仕事をお願いしますとなるかもしれないけど、英語はできる人がいくらでもいるので、それが無いと思います。英語専門の人は一点でも多く点数を取るという気合は必要だと思うし、英語でも韓国語でもそうですが、語学+αが欲しいんですよね。

目白大学の韓国語学科卒業しました。ネイティブの先生に習ったので、韓国語できます。となって、日本だと自慢できるかもしれないですが、韓国に行ったら韓国人が大勢いるので、当たり前なんですよね。絶対私たちは韓国人に勝てないですよ、母国語だし。韓国だって逆に日本語を勉強している人は大勢いる。日本人で韓国語を勉強している人よりも韓国人で日本語勉強している人の方が多分多いんですよ。今、K-POPブームでかじり程度で良ければ韓国語できるって人で日本の若い子は大勢いると思うんですけど、ある程度ものになるレベルでやっている人ってそんなに多く無いと思うので、日本人をわざわざ使う必要がないんですよね。

目白の韓国語学科出た、これで仕事に困らないって思うかもしれないですけど、やっぱり実際卒業してからきついんですよね。韓国語できるのって特別すごいことじゃないんだ。私も卒業して思ったんですよ。韓国人と肩を並べて大学院に行って、勉強するんだから関係無いんですよね。できて当たり前だし、向こうは日本語ができるんだから。私、どうしようと思ったんですよね。今思えば、目白の前の大学も卒業しておいて、韓国語は韓国語で大学じゃなくても専門的に勉強するのもありだなと。そうすれば、以前の大学の専門と翻訳をかけあわせて売り出せるじゃないですか?今の学生さんにはそういうことをして欲しいんですよね!

韓国語学科に入る子は韓国語を学べれば良い、韓国に行ければ良いという視野が狭くなってしまっている印象もあるので、私も一年生から入っていないからわからないですが、客観的に見てほかの外国語学部よりも一直線なイメージがあると思うんですね。在学中は良いですが、もうすぐ卒業を迎える時期が来ると、その壁にぶち当たると思うんですよ。

入学してから周りは韓国語やりたい同士で集まって安心する。このままで良いんだ。ということがあると思うんですけど、できるだけほかのこと、ほかの人より韓国語や別のこと、何でも良いんですよ、漫画でも。別のことでも何でも良いし、一つでも多くのことやって欲しいですね。一つでも好きで得意で伸ばせるもの色々試して欲しいと思います。

もちろん、一度にいろいろなことやったら中途半端になるんじゃないですか?と言う人もいるかもしれないんですが、やらないとメインでやっていることの大事さがわからなくなるし、私も一時期は韓国語に集中したいということがありました。英語を入れると韓国語が出てしまうんじゃないかと思いましたが、結論から言うと無いです!だから、頑張ってください。

私の頭の中には、今日本語、韓国語、英語、ロシア語とドイツ語がちょっとの5言語が入っています。ロシア語とドイツ語は初級でまだまだって感じですが、韓国語と日本語で喋っていて、次の時間はドイツ語で喋っているので脳がパニックになるとかはありません。言語的にもそうだし、言語以外の何かをつくっておいた方が良いと思います。

ある程度ものにならないとやってますと言えない風潮が日本ではあるじゃないですか?いきなり興味がなく、やったこともないものをやれというのは無理な話ですけど。全然、少し好きでやってましたぐらいで良いんですよね。卒業して仕事してというと実際に試している時間はなくなってしまうので、学生の間にいろいろなことをやって試して本格的に自分にあったものを見つければ良いと思います。学生時代はそんな時間が無いって思ってしまいますけどね。

大人になると結婚して子供を産んでということを考えると、私は子供がまだいないので、ほかの人よりはできているとは思いますが、大学卒業後は会社に所属する人が多くなると思うんですね。会社勤め、どんな仕事でも人生の大部分は仕事で終わってしまうので。会社が8時間業務としても感覚的には通勤があったり、頭で仕事のこと考えたりすると、寝る時間と食べる時間を考えると、一日で起きている時間の半分以上は仕事になっちゃうから。その中で自分の好きじゃないことをやるのは相当ストレスになる。

韓国語学科に入学したときに、私は3年時の編入だったので、いかに単位を早く取るかが課題としてあったので、一回で2単位もらえるのって、けっこうめんどうくさい(笑)授業なんですよね。言語学など、周りのみんなが取らない授業を取っていって、いくら韓国語が好きでも授業に出るとつまらないと、韓国語に熱中している私ですら思っていたんですよ、ただ、出てきたんですよ!仕事でこれ、翻訳してって言われたんですよ。授業で訳わからないと思って聞いていた用語が仕事で出てきて、大変だったけど、最後までやれたんですよ。

それはあなただけだよ、運が良かっただけという人がいるかもしれないですが、やったことを役立てるかどうかはその人次第なんですよね。受験生とかはこんなことやってどんな意味があるんだよとモヤモヤっと思うかもしれませんが、絶対にあとで役に立つとは言えませんが、自分で役に立たせることは出来る。今やっておいて、あとで役に立たせると取って置けるのも自分だし、やっぱり意味ないやと捨てられるのも自分だから、みなさん頑張ってください!

睦実さん、ありがとうございました。ご自身が道を切り開いた方として、在学生が少しでも道を歩きやすくなるような想いが言葉にこもっていたのが印象的でした。

睦実さんのご活躍に興味を持たれた方は、お問い合わせフォームからお話を伺いたいなどご要望をして頂けますと事務局がやり取りさせて頂きます。